リスクとは
辞書では「危険」「危険度」「予想したとおりにうまくいかない可能性」「失敗したり損をしたりする危険」という表記があります。まさにその通りなのですが、弊所での定義では「ある行動に伴って(あるいは行動しないことによって)、危険に遭う可能性や損をする可能性。不確実性」としています。危険や損をするというだけではなく、将来的な不確定要素も考慮した認識です。

潜在化リスクと顕在化リスク

簡単に言うと、見えている部分(顕在)と見えていない部分(潜在)です。事業活動を例にとってみると

潜在化リスクは起きるかも知れないし、起きないかもしれないが、顕在化する前に対策を打つことが必要です。
ハインリッヒの法則
アメリカの損害保険会社の安全技師であったハインリッヒが発表した法則です。「同じ人間が起こした330件の災害のうち、1件は重い災害(死亡や手足の切断等の大事故のみではない。)があったとすると、29回の軽傷(応急手当だけですむかすり傷)、傷害のない事故(傷害や物損の可能性があるもの)を300回起こしている。」というもので、300回の無傷害事故の背後には数千の不安全行動や不安全状態があることも指摘しています。また、ハインリッヒは、この比率について、鉄骨の組立と事務員では自ずから異なっているとも言っていますが、比率の数字そのものではなく、事故と災害の関係を示す法則としては、現在も十分に活用できる考え方です。
出所:厚生労働省「ハインリッヒの法則」
1件の重大事故の背景には、29件の小さな事故と、300件の事故に至らない危険な状態がある

企業経営にとって、また日常生活においても、1件の重大な事故で会社が倒産した・人生が変わってしまったというような事があります。これは誰にでも起こりえる事で、それがたまたま小さな事故で済んだ、事故に至らない危険な状態で助かったというケースは少なくありません。重要なことはどんな危険(リスク)があるかを認識し、どのように回避するか、対策するか、放置しておくかを主体的に「決定」することです。人間は都合の良いもので、顕在化リスク(目に見えて危険だと思える事)には対策しようとしますが、潜在化リスク(危険を認識していない・危険だと考えたくない)に対しては、すぐに必要ない・うちに限っては大丈夫として対策しないケースも多く見られます。重大な事故や事象が起こってからではどうしようもない場合が多くあります。
私の事例
20年ほど前にはなりますが、連日深夜までの仕事疲れで居眠りをしてしまい民家の壁に追突したことがあります。幸いにも怪我人がおらず壁の修理だけで済みましたが、これが歩行者の列などに追突したと考えれば、ニュースで取り上げられるような重大な事故につながっていた可能性も大いにあります。それ以来、疲れているときは車を運転しないことで不注意や不安全行動のリスクを抑えています。また経営陣は従業員の安全配慮も大切な仕事ですので、ハザード(危険や危険要因)の特定などリスクに対してしっかりと検討する必要があります。
リスクへの対策
リスクの対策方法としては、大きく分けて4つのセクションがあります。


ISO31000によるリスクのプロセス

企業を取り巻くリスクの一例

リスクの中でも、PL事故や粉飾決算など企業のガバナンスや意識の向上で防げるリスクもあれば、国際紛争や為替変動など一企業の影響力ではどうしようもないリスクもあります。ただそのようなリスクであっても被害を最小限に食い止めるような施策を打つか打たないかは企業の裁量になります。
サプライチェーンにおける企業のリスク
企業は一企業単体で動いていることは少なく、サプライチェーン(供給連鎖)という枠組みの中で「製品の原材料調達から製造、物流、販売、消費」の一翼を担っていることがほとんどだと思います。

メーカーを中心としたサプライチェーンでは、問題が発生することで他の企業にも影響を及ぼし、最悪の場合にはサプライチェーンからの離脱もありえます。


最も成功する危機管理・リスク管理は、危機に陥らないこと
今回はリスクとリスクマネジメントについて見てきました。ゴルフに例えると、危機(ラフやバンカー)を乗り越え無事目的地(カップ)に到着するよりも、危険を避けて(フェアウェイにボールを置き)何事もなかったように無事目的地に到着する方がベストで、前者はセカンドベストだと言えます(スポーツではそれが楽しいかも知れませんが)。企業のリスクマネジメントでも、リスクを事前に察知し、対策を打ち、リスクを「回避」しながら経営計画を進めて行くのが最も重要になります。
言うは易く行うは難し
実際に運用していくのは相当な覚悟と労力が必要とされますが、PDCAを回すのに最初から完璧に行うのは難しいのと同じで、まずは現状のリスクを「主体的に」精査し、方針を決定していく事が重要だと感じます。重大な事故が起こってからでは対策の施しようがなく、最悪の場合、企業の存続にも関わってくるのですから。













